Dec 9, 2017
前回から少々間が空いてしまいましたが、Steve Blankブログ第三回をお届けします。
今回は「スタートアップの成長の痛み」のお話。「リーンに仮説検証を繰り返してビジネスモデルの構築ができたら、競合が参入する前に一気に先行すべく組織づくりをしていく必要がある」と述べながらSteve Blankさんは顧客開発モデルでは総仕上げの最終ステップとして「組織構築」を別途設けて注意喚起をしています。組織構築の際に、後から入社する社員というのは創業メンバーとは異なる目的やマインドで働いていることも少なくなく注意が必要です。起業家にとってこれまでは必要がなかった組織のマネージメントをうまくやらないと、折角のビジネスモデルを生かすことができません。そうならないためにはどうすればよいのか?そんな問題意識でブログをお楽しみください。
スタートアップとありますが大企業の方にも役立つ内容です。機能別の分業の弊害で社内が部分最適にとどまってしまい全体としての最適にならない。そんな問題に身に覚えのある方も是非どうぞ。
スタートアップの組織拡大時に注意すべきこと
3/15/2017 by steveblank
“目的地が分からなければそこには着けない”
先日、私はスタートアップでマーケティング担当責任者をつとめる元教え子と再会しました。そのスタートアップは顧客開発モデルの顧客開拓へと進み事業は順調に拡大していました。ところが、彼は社員数が増加して組織が大きくなるにつれ、担当部門の生産性が急速に低下していることに悩んでいました。
私は驚きませんでした。当初の小さな組織では全員で共有できていたミッションに対する社員の意識が、組織が大きくなり分業が進むにつれて各自が目先の仕事に追われることになり、希薄化してしまうという成長期のスタートアップによくある問題に悩んでいたからです。ミッションとは組織が果たすべき役割のことです。 私も悩んだ以下の経験を懐かしく思い出しながら、問題への処方箋として「ミッションとその目的を社員に認識させよ」と彼にはアドバイスしました。
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ダメな会社の社員の業務認識
私が当時再生中だったある企業のマーケティング担当責任者を務めていたときのことです。同社はなんとか再生手続ができ再スタートを切ったものの、手持ち資金は潤沢とは言えず事業の立て直しが急務でした。 着任早々、私は各業務の担当責任者と面接をして業務状況を聴取しました。すると、この企業が破綻した原因が浮かび上がってきました。それは各責任者の業務に対する認識があまりに縦割りだということです。例えば、展示会の担当者は「ステーブ、私のチームの担当業務は展示会に出展することに決まってるだろう」と言い、マーケティングの担当者は「うちのチームの仕事はカタログを作ることよ」と自信満々に応えるなど、いずれの責任者も業務を手続論でしか捉えていないのです。広報の責任者から「私たちの仕事はプレスリリースを作って発表するとともに記者からの問い合わせに応えることです。」と聞いたときには苦笑するしかありませんでした。
縦割りの業務認識の危険
どうしてマーケティング部門でそれらのことをしているかと聞いても、「それが仕事だからだ」と繰り返すばかりでした。彼らは「部署名や肩書=ミッション」としか捉えていないのです。 会社の立て直しに残された時間が限られる中では切迫感とスピード感をもって仕事をしてもらう必要がありました。しかし、縦割りの業務認識ではそれは期待できません。肩書の業務だけをこなしているだけでは木を見て森を見ずでバラバラに仕事をしてしまうからです。大企業と異なり、スタートアップでは社員の肩書き=なすべき仕事のすべてではありません。これは非常に大切なことです。
部門のミッションステートメント
この話は私が単に無能な従業員を引き継いでしまったということではありません。マネージメントの失敗でこうなってしまったのです。当時の経営者は社員が真剣に働くようにしなかったのです。大企業にいるかの如く、全員が与えられた仕事だけやれば良いというマインドのもとで仕事をしていたのを放置していたのです。 特に問題であったのは、誰一人として部門のミッションを定義して社員に浸透させようとしていなかったことです。ここで言っているミッションとは、美辞麗句に満ちた表向きの「企業のミッションステートメント」のことではありません。 ミッションとは部門のメンバーが日々の業務でガイドラインとすべき基本的役割のことです。「ガイドするのはお前の仕事だ」と当時のCEOには言われましたが、会社が置かれた切迫する状況下で必要なのは、箸の上げ下げまで指示せずとも社員が自分で判断してどんどん業務を推進できるようにすることでした。そのためには、マーケティング部門が果たすべき役割と目標を明記した「部門のミッション・ステートメント」を定義する必要がありました。目標には売上と利益という定量目標も不可欠です。
マーケティング部門のミッション
私は、営業部門の状況も把握しつつ、マーケティング部門のミッションステートメントを次のように設定しました:
マーケティング部門のミッションは、営業部門が2500万ドルを売り上げ、45%の粗利益率の確保するのを支援することである。そのためには顧客の製品への興味を喚起し、販売チャネルへと導き、製品の長所を理解させる。その一方で開発部門に顧客ニーズを伝えて理解させることも大事である。当部門はこれを、需要開拓(広告、PR、展示会、セミナー、ウェブサイト等)、競合状況の分析、製品説明資料(白書、データー・シート、製品解説)、顧客調査、顧客発見活動を通じて実現する。
今年度ということでは、マーケティング部門の目標は、4万件のセールスリードを獲得すること、企業と製品の認知度を対象市場内で65%に高めること、4半期ごとに5件の好意的な製品レビューを得ること、初年度の市場シェアを35%に伸ばすことで、それを20名の部員と400万ドル以内の経費で達成する。
これを達成するために以下に取り組む
• エンドユーザー需要の開拓 • 販売チャネルへの誘導
• 売上利益目標の達成に適切な価格設定
• 販売チャネルの教育
• 開発部門への顧客のニーズの伝達
2つパラグラフと5項目、これだけで十分です。
ミッション志向の組織作り
部門のミッションを明確にすることで、社員は肩書きではなくミッションの達成のためにすべきことは何かを考えるようになります。 マーケティング・コミュニケーション担当の新しい責任者は、チームに部門のミッションに応じて仕事をするよう徹底しました。これにより、例えば展示会の担当者は展示ブースを設置することだけが自分の仕事という訳ではないと理解しました。ブース設置は業者にまかせて、展示会担当者の真の仕事たるべき製品の認知度向上と需要開拓に専念し始めました。ブースは単なる道具であり認知度向上と需要開拓に資するなら別の手段でもかまわないと悟ったのです。 広報やプロダクトマーケティングもこれに続きました。広報チームの担当責任者は認知度向上や需要開拓のために直結する広報活動に集中し、プロダクトマーケティング部の担当者はカタログを制作することででなく使用率に目を向けるようになりました。
ミッションの目的
次に私は、ミッションは変わりうることを部員に認識させました。スタートアップでは、仮説検証を繰り返しながらビジネスモデルを最適化するために様々なピボットを繰り返すというのは、このブログの読者の皆さんなら良くご存知ですよね。ビジネスモデルをピボットすれば、ミッションも当然に変わります。 ミッションの変更で社員に困惑させない秘訣は、「ミッションの目的」を認識させることです。ミッションの目的とは、ミッション遂行により実現したい会社全体の目標やそのための戦略のことです。
私がいた企業の場合、ミッションの目的は45%の粗利益率を維持しながら2500万ドルを売り上げることでした。ミッションの目的を社員が理解すれば、その達成を目指して全社は一丸となってそれぞれのミッションを遂行するというわけです。 例えば、4万件のセールスリードの獲得というマーケティング部門のミッション自体を社員が目的化してしまっていると、それが無理だと分かっても引き続きそのミッションを追い続けてしまいます。しかし、ミッションの目的は売上2500万ドル、粗利率45%の達成だと理解していれば、ミッションが達成できない時には別の手を打とうと頭を切り替えることができます。「ワニに囲まれてしまうと浄化という沼に来た目的を見失ってしまう」ということわざがありますが、ミッションの目的を常に意識させることでそのような状況を回避できます。 スタートアップで様々な仕事を少人数でこなすため多忙を極めます。ともすれば、目先に仕事に没頭し、それが自己目的化しがちです。ミッションとその目的を常に意識するよう社員を教育することで本来すべきことに回帰させられるのです。
目的認識の重要性
1年後、私の部門は、各メンバーが臨機応変に行動し、「言い訳しない」を合言葉に積極的に責任をはたしつつ、全体として一丸となって目的を果たそうとする組織へと進化しました。 商談成功の朗報も多く舞い込むようになり、強力なライバル企業に肩を並べるようになったのです。そのことに皆が驚きつつも誇らしい瞬間でした。
教訓
• 全社員が自律的に業務遂行することを奨励すること
• ミッションステートメントを組織内で徹底共有すること
• ミッションの背景にある目的を意識させること
• 自律的に行動する自信をもたせること
• 言い訳のない文化を醸成すること
• 基本的な価値観を組織内で共有すること
オリジナル原稿
翻訳:山本雄洋、監訳及び編集:ラーニング・アントレプレナーズ・ラボ 堤孝志
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